wiiはお茶の間エンターテインメントを変えるか(1)

私は殆どゲームをやらないのだが、任天堂のwiiはすごいと思った。岩田社長のプレゼンも素晴らしい。話術や資料の巧みさや、テキスト/動画を両方公開するところ、YouTubeにCMをアップするところ等、マーケティング手法としてもとても勉強になったが、それはあくまで副次的な要素で。

やはり、コントローラー自体を振り回して操作するという斬新なUI、それを「リモコン」と呼ぶ発想、「チャンネル」という概念とあの画面設計、「これをゲームという枠組みだけで考えてよいのだろうか?」と思うのは私だけではないはずだ。そんなわけで、ET研の復習も兼ねて、wiiの可能性やビジネスオポチュニティについて考えてみたい。

●ゲーム業界の現状

なんだか色々な可能性を感じるのだが、まずは何と言っても気になるのはゲーム業界に与えるインパクトである。

ゲーム業界全体の規模は、CESA (Computer Entertainment Suppliers' Association)の調査によると、2005年のゲーム総出荷額はハード/ソフト合わせて1兆3,598億円、うちハードウェアが8,727億円、 ソフトウェアが4,871億円となっており、主に携帯型端末の投入が成長要因であったとされている。

市場シェアについてだが、SONYのゲーム事業部門の売上高が1兆円弱、任天堂が5,000億円前後であり、北米でのPS2のシェアが60%~70%という記事を複数見たので、現在の(=wii登場前の)任天堂のシェアは3割前後なのではないか。

但し、ゲーム市場自体は飽和気味だとも言われる。これまでは、5年スパンぐらいで新しいハードが出て、それに伴ってソフトも進化し景気を促進してきたため、新しいコンソールが出る前は「買い控え」が起こるのが一般的だったようだ。(この構図は、MicrosoftがPC市場でやってきたことと同じように見える。つまり、ゲーム市場のプラットフォームリーダーはハードベンダーということなのだろう。)2006年に入ってから、特に北米では、古いコンソールの価格が下がったこともあり、PS2の人気が高く、買い控えが起こらないという事象が見られている(参考:Older Consoles Lift Game Publishers - WSJ.com)。確かに、任天堂やSONYのゲーム部門の売上高の推移を見ると、ここ10年ぐらいのスパンでゲームの市場は一旦停滞している。岩田社長のプレゼンでも、市場の飽和については指摘されている。 

もう一つ、ゲーム市場を考える際に重要なファクターだと思うのは、(他のコンテンツ産業と異なり、)ゲームは、圧倒的に輸出が強い産業であるという点だ。CESAの調査では、日本のゲームは、ハードウェアの81%、ソフトウェアの52%が海外市場向けであったと報告されている。それと、特にソフトに関して他のコンテンツ産業と比較したデータが平成18年度情報通信白書にあったので載せておく。(単位は億円)

また、任天堂のハード/ソフトの出荷ユニット数から見ても、ハードが76%、ソフトは79%が海外市場となっており、ゲーム会社の経営がグローバル化していることが伺える。(ちなみに、売上の3割が日本、残り7割が海外という構図はSONYやトヨタもほぼ同じである。)

●wiiが戦うのは他のゲーム機なのか?

wiiは「毎日ユーザーが電源を入れたくなる」「家族の皆が使う」サービスを目指すと謳っている。

ところで、そもそも、日本人はどれくらいゲームをするものなのだろうか。消費者の行動を示す幾つかのデータから読み解くと、

では、ゲームをしない人は、なぜゲームをしないのか。「ゲームをしない、しなくなった理由」は、「他にやりたいことや欲しいものがある」、「ゲームに対して興味・関心がない」、「ゲームをする時間がない」(以上、出典:CESA2006一般生活者調査)となっている。

  • 日本人のコンテンツ関連の年間支出(家庭当たり)は9万959円(2005年)だが、ゲームが占める割合はわずか3%に過ぎない。また、ゲームに対する支出は2000年をピークに減少傾向にある。
  • 生活時間で見ると、日本人の3次活動(睡眠・食事など生理的に必要な活動や、仕事や家事など義務的な活動を除いた、いわゆる「自由に使える時間」)は平均6時間26分。このうち、テレビや新聞等の受動的なメディアや休養に費やす時間は3時間53分、学習や趣味といった積極的に過ごす時間は1時間13分。

ここから推察すると、ゲームをする人はするが、しない人の方が多数派であり、また、ゲームソフトに対する支出も額は限定されているため、広い意味では、家庭当たり年間9万円の予算と、1人当たり一日6時間半の自由時間(タイムシェア)を巡る戦いである という言い方もできるかもしれない。そう考えると、これはゲームに限らず、インターネットサービスやその他の娯楽も含めての競争なのだが。

・・・ホントは、この後、任天堂の強みや狙い、ゲーム業界のバリューチェーンについて書こうと思っていたのだが、長くなったのでその辺りは次回へ続く。(思わせぶりですいません。。。)


ゲーム機は"IBM Inside"?

MercuryNews.com | 11/13/2006 | In video game consoles, IBM has been a clear winner

No matter whether Nintendo, Microsoft or Sony wins the video game console war, there already is one huge victor: IBM, which designed and makes the microprocessors for all three units.

IBM is expected to win about $3.7 billion in sales of chips and associated design services this year, up from $2.9 billion last year and $2.5 billion in 2004. Analysts estimate the unit is profitable.

But even those gains don't capture how much game chips have galvanized IBM.

Using the engineering consulting work it did for Microsoft, Nintendo and Sony as a model, IBM has formed a new ``technology collaboration solutions'' unit that's expected to post $4 billion in revenue this year. Internal projections call for that division to hit $10 billion by 2010 and $20 billion by 2015.

ゲーム機業界全体の規模が分からないけど、任天堂の全社売上が$4.3bぐらいらしいので(FY2006、同社IR情報による)、プロセッサだけで$3.7bというのは感覚的にけっこう大きそう。

IBMは、PC等コンピューターのモジュール化が起こった時に業界アーキテクトだったのに、MicrosoftとIntelにおいしいところを持って行かれ、相当悔しい思いをしたはずなので、今後プロセッサでどういう巻き返しを狙ってくるのか興味津々。面白い構図だ。

それにしても、任天堂のハードウェア(ゲーム機)が一番売れているのはお膝元の日本じゃなくてアメリカ(正確には「アメリカ大陸市場」だと思われる。カナダや南米も含めるって意味)だというのはちょっと意外だった。ソフトに至っては、ユニットベースで、Gameboy AdvancedとGameCubeは半分以上がアメリカ市場の売上になっている。NYTimesやWall Street Journalでも、大々的にゲーム機の特集を組んでいるのも納得。


「知らなかったこと」にはできない。

これまで、「知らなかった」自分と、「知ってしまった」自分とは、どちらが幸せなんだろう。
と考えることが何度かあった。

私の場合、主にそれは食い意地に関係しているのだが。

私の密かな趣味?は、「食パンの食べ比べ」だったりする。と言っても、自分でパンを焼くほどのスキルはなく、ただ、見かけた街のパン屋さんやデパ地下で食パンを買うのが好きだ。不思議なもので、食パンの値段というのはだいたいどこの店でも相場が決まっている。よほど何か蘊蓄がある凝ったパンでなければ、普通は一斤200円から250円ぐらいで買える。

最初は「おいしい」「おいしくない」みたいな軸でしか判断できなかったが、色々食べていると、甘みがあったり、香ばしかったり、塩気があったり、それぞれ味が違っていて、「単に"違う"だけで、後は好みの問題なんだなあ」と最近までは思っていた。

が、先日、「食パン観」が変わるほど"違う"パンを食べた。確かに、値段もちょっと高かった(定価は450円ぐらいで、一日前ので360円だった)んだけど、それぐらいの値段の食パンは他にもないわけではない。でも、これまで自分が食べてたパンとの違いに、カルチャーショックを受けた。

それと同時に、「この味を知った自分は、知らなかった自分と比べて、幸せなんだろうか」と、冒頭の問いに戻ったのだった。

パン以外でも、似たようなカルチャーショックを受けたことは何度かある。例えば、コーヒーとか。私は10年ほど前むちゃくちゃコーヒーにはまった時期があって、街を歩いて美味しそうな喫茶店を見つけたら飛び込んでみる、のが趣味だったことがある。日本のコーヒーは一般的にとてもレベルが高いと思う。それが分かったのはアメリカに行った後だったが、でも、アメリカにも、日本の美味しいコーヒーと比べても全く引けをとらないコーヒーもあった。

なぜ、その味を「知ってしまった」ことが不幸せか、というと、「○○は××でしか買えない」のような、自分の行動に対する「縛り」みたいなものができてしまうからだ。いや、別に、他の店で買ったからって、ペナルティがあるわけじゃない。もちろん、他の方に淹れていただいたコーヒーは、いつでもありがたくいただきます。・・・なんだけど、自分で買うという段になると、やはり、他の店への足が遠のいてしまうのだ。しかも、その店が遠かったりするし。それってホントにコーヒー好きにとって幸せなんだろうか?みたいな。

実は、こんな非建設的な悩み(笑)で、つい最近まで、美味を心から追及することに、私は、心のどこかでブレーキを掛けていたかもしれない。「その割には食い意地、張りすぎ」と突っ込まれるかもしれないけれど(笑)

つい先日、友人と会ってそんな話をして、別れて、しばらく自分でも考えていたのだが、やっぱり、「知らなかったこと」にはできないし、「知ってしまった」ことは自分にとってラッキーなのだと、今は思えるようになった。

この先、自分が知ってしまったおいしいコーヒーやおいしいパンを一生知ることなく過ごしていたとしたら?と考えると、それはもっと寂しいんじゃないか?と、思うからだ。これは、別に、食べ物のことだけじゃないのかもしれない。例えば、きれいな景色や、すごいプレゼンを見た後の感動みたいなのもそうだ。同じように、最近、私はソーシャルブックマークを始めてみて、「ブログを始めた頃の自分だったら、間違いなくコレで一本書いてたな」と思う記事がたくさん溜まっていることに気づきつつあった。

前は、おいしいコーヒーの味を知ってしまうと、「買いたい店が少なくなる」的な、後ろ向きな考え方をしていたが、実はそうじゃなくって、自分の知っている味の幅が広がった、成長したという考え方もできるなあ、と。ブログも、(更新頻度が落ちているのはもうちょっと何とかしたいとは思うけど)たくさん記事を読めるようになったり、感動の琴線ハードルがあがったことで、色々考えてから書くようになったのは、これはこれで良い面もあるのだ。たぶん。

「出会いは別れの始まり」と考えるか、「別れは出会いの始まり」と考えるかの違いみたいなものだろうか。

アメリカのファミレスの、むちゃくちゃ煮詰まったニガニガのコーヒーも、カリスマバリスタの気合十分・焼き立てなコーヒーも、
スーパーで量販されてる乾燥しちゃったパンも、パン職人が極上素材を使って丁寧に焼き上げたパンも、
そのときそのときの状況に応じて、どちらも楽しめる自分でいたいなあ。と今は思う。
例えば、突然思い立って出かけた旅行先で、とか、むちゃくちゃ真剣に議論してるときとかは特に。
何を食べるかも、とても大事だけど、誰とどう食べるかも、同じくらい大事だし。

ちなみに、私が先日感動したのは、天然酵母を使ったパンだった。
パネッテリア アリエッタ
〒141-0022 東京都品川区東五反田2-5-1 ルネッサンスビル1F
TEL / FAX: 03-3444-1345
営業時間: 8:00~20:00
定休日: なし


書評:日本経済 競争力の構想―スピード時代に挑むモジュール化戦略

マイケル・ポーターの「日本の競争戦略 (Can Japan Compete?)」の要旨を一言でまとめると、日本企業には戦略がない、国際競争力がない。ということだと思う。(一部の産業を除いて、)日本企業は、どこに参入するか・しないかを自分で判断せず、既にある程度市場が立ち上がってきてから二番手で参入し、品質・オペレーションの改良を行なってシェアを奪う。デザインやコンセプトが他社製品の模倣になりがちで、オペレーションの優劣と価格だけの勝負になる、なのでマージンが薄い、というような批判をされている。

日本経済 競争力の構想」は、ポーターの論を受けて、本当に日本企業には戦略や国際競争力がないのか、その原因は何なのかを検証しつつ、今後の方向性を示している。

●日本には国際競争力はないのか?

結論から言うと、あんまり芳しくはない。この本では、スイスの名門ビジネススクールIMDの競争力ランキング(2002年度版)における順位を取り上げており、この本のソースになっている2002年は、日本は49か国中30位となっている。指標毎に見ていくと、特に、企業経営(49か国中41位)と起業家精神(49位)に対する評価が低い。

一般的に、企業のパフォーマンスを測るには、売上高や利益率といった経営指標を使う。しかし、国同士は市場を奪い合っているわけではないので、IMDのランキングでは、単純に経済成長率・GDPによる比較だけではなく、経済成長に対する各国の制度や政策、インフラ等、中長期的な繁栄に影響を与える要因によって評価している。

※もっと詳しく知りたい人は、IMDのWorld Competitiveness Yearbook "Factors and Criteria"をご参照ください。ちなみに、2006年のランキングでは日本は17位(前年度より4位アップ)、1位はアメリカ。

最も重要な経済指標としては、生産性(全要素生産性=Total Factor Productivity)の検証を行なっている。日本は80年代、90年代前半、90年代後半と、この20年間成長が鈍化し続けており、逆にアメリカは成長傾向にある。産業別にアメリカと比較してみると、自動車・機械はアメリカを上回り、サービス産業(電力・運輸・通信)は概して下回っている。ここから、著者は、サービス産業の生産性を上げるためには規制緩和が重要だと指摘している。但し、この本が書かれた後、ここに挙げられたアメリカのサービス産業は、経営危機に陥ったり、過度の市場原理の導入によってサービスレベルが低下したりといった反動も出てきているので、難しい問題だと思う。

また、特に製造業については、貿易額や国際市場におけるシェアをみているが、いずれも日本・日本企業の地位が相対的に低下しつつあることが説明されている。

●その理由は?

  • 研究開発投資額や特許件数 等、イノベーション活動は活発だが、生産性向上や商用化に必ずしも結び付いていない。また、企業による投資が中心で、政府・大学等の投資が小さい。
  • 海外企業・海外資本が参入する魅力が薄い・参入しづらい。(インフラコストの高さ、会計情報の信頼性、外国人取締役・株主が参加するための環境)結果として、対日直接投資が小さい。

●日本企業には戦略はないのか?

特にこの本の中で面白いと思ったのは、携帯電話・情報家電・PC・半導体といった、ハイテクに占める重要性・将来性が大きい分野について、該当分野に属す る企業の企画部門の部課長クラスに対して実施したアンケートの結果(ミドルの本音)である。詳細はぜひ同書をご覧いただくとして、要旨をまとめると、

  • マネジメント能力のある経営者が少ない。
  • 確かに、支援産業(サプライヤ等か?)が国内で隣接しているお蔭で重要部品・装置の入手は早いが、じゃあそれが次世代製品開発に役立っているか?というと、そこまでは活用できていない。
  • 企業目標に適合しない事業の廃止判断が遅い。
  • 横並び模倣競争になっている。
  • ハイテクセクターで働く誇り・思い入れは強い。

ということで、少なくともハイテクの上記4分野においては、日本企業には戦略がなく、オペレーション効率一辺倒の価格競争に陥っている と自覚されていることが分かった。私は3年前に「日本企業はSlowか?」というエントリを書いたことがあるのだが、感覚的だった割には結構当たってたな、とこの本を読んでみて思った。

●日本企業の「組織力」はどうなのか?

日本企業の特徴を揶揄した言い回しとして、「強い現場、弱いマネジメント」と言われることがある。この本では「組織IQ」として経済産業研究所で行なった調査について言及している。この調査は、同じ質問票で、シリコンバレー企業と日本企業のトップ・ミドル・現場にそれぞれアンケートを行なったもので、300人以上の回答に基づいている。対象は、上述のハイテク4分野+銀行である。結果はかなり厳しい。まとめると、

  • 日本企業は、方針の明確化、それに基づくチームとしてのベクトル合わせ、それに合わせた組織の創造力、新規プロジェクト立上げサポート等、内部調整・資源調整力には優れている。
  • 組織内部における情報共有力は弱い。トップの外部情報に対するアンテナ・意欲は高く、ミドルもそこそこ頑張っているが、現場は「タコツボ」化しており、日々の仕事で精一杯で外部の大局的動向どころではない。ナレッジや情報を部門横断的に共有しようという意欲に欠けている。→個人的な実感と非常に近くて、激しく納得した。
  • トップは「自社の意思決定は迅速だ」と思っているが、変化のスピードや実情を良く知るミドル・現場からは「ちんたらしている」と思われている。権限委譲が不十分である。
  • 組織としてのフォーカスはできているが、個人の意欲やヤル気は抑圧されている。
  • 組織IQは、企業によって相当差がある。トップ1/3はシリコンバレーと比べて遜色ない。

あまりに厳しいのでちょっと擁護してあげたい、というわけではないが、組織は大きくなればなるほど(一般的には)階層化・官僚組織化していくものなので、トップとミドル、現場の乖離度合いは、組織規模によって差が出るのではないかと思う。そういう意味で、アンケート対象となった日本企業をシリコンバレー企業とダイレクトに比べるべきかどうか、という点は個人的には気になった。

●では、どうすれば良いのか?

四つのキーワードが挙げられている。

  1. モジュール化
  2. ベンチャー
  3. 技術ロードマップ
  4. 技術マーケティング

これら4つは、相互依存的な関係があるように思う。例として取り上げられていたのは、またしてもIBMのシステム/360である。モジュール化とは何か?(1つめのキーワード)なぜモジュール化がベンチャー参入を促し、業界全体を活性化させるのか?(2つめのキーワード)については、コンピュータ業界に訪れた転換点とはや、コンピュータ業界でモジュール化が成功した幾つかの理由でご紹介したので、興味のある方はご参照下さい。

コンピュータアーキテクチャーのモジュール化で主導的な役割を果たしたIBMの意思決定を見ていくと、

  • 業界全体に何らかの課題があり、それを解決するためにはもっと技術革新の速度を上げなければならない。しかし、それら全ての技術要素・部品の開発を自社内だけで行なうには時間が足りない(=技術ロードマップ)
  • よって、どのように要素分解を行なうか、自社はどこにフォーカスし、いつまでに何を作るかと、自社開発しない部分を、どこから、どのように調達すべきかを調べ、決定する(=技術マーケティング)

モジュールというアーキテクチャーが適合的かどうかは製品によるが、ハイテク分野で世界トップの企業と戦って行くためには、このような意思決定プロセス、そのための情報収集・分析機能、アウトソーシング戦略の立案と遂行能力が必要だということになる。世界トップクラスのハイテク企業では、3週間に一度、社長自らがロードマップの確認・修正を行なっているのだそうだ。果たして日本企業はそれができているだろうか?というのが著者の問いである。アンケート回答のように、「企画部門の仕事は社長や経営陣の講演資料を作ること」「タテ人脈のヨコ調整」というのでは、何とも心許ない。

●日本のベンチャー起業の現状

これに加えて、では、ベンチャー起業という視点から見るとどうか?だが、世界各国の開業率・廃業率に関するデータによると、日本は90年代以降、廃業が開業を上回っている。加えて、OECDのベンチャー投資額の対GDP比は、日本は最下位となっている。従って、お世辞にもベンチャー起業が活発な状況だとは言えない。

良いか悪いかは別として、近年ますます競争は激化しており、企業の生き残りは厳しくなっている。現代では、日米共に、15年間以上株式市場で並外れたパフォーマンスをあげ続けた会社はないほど、企業の入れ替わりは激しくなっている。この環境下で、新しい企業が参入していないというのは、中長期で見た場合、経済成長が停滞するリスクがある と考えるのが自然だろう。

もう一つ、本に出ているのとは別のデータを追加しておくと、スタンダード&プアーズ500銘柄に対して、長期的に安定した成長を続ける能力があるかどうかという観点で評価すると、1985年では、41%がローリスク(つまり、安定的な成長を続ける可能性が高い)、35%がハイリスク(今後は成長が見込めない可能性が高い)とされていたが、2006年ではローリスクな銘柄は17%まで低下し、変わって、ハイリスク銘柄の割合が何と73%にのぼっている。(Managing in Chaos, Fortune 10/2/06)

つまり、一旦成功した会社がそのポジションに留まり続けるのが難しくなってきている、と解釈できる。

なので、日本が競争力を取り戻すための結論としては、もっと個人がモチベーションを持ちうる組織や社会の仕組みが必要だ。ということなのだろうと思う。

結論としては、ポーターとそれほど大きく違っているわけではないのだが、なぜこの本が説得力があるかというと、世間一般では感覚的に語られがちなテーマを、ここまで踏み込んだ検証・分析を行なっているという点なのだろう。ポリシーメーカーの方々や、ハイテク産業の会社経営者、悩めるミドル・現場の方々にオススメしたい本です。


GoogleとYouTubeは既存ビジネスの破壊者なのか?

週末、Emerging Technology研究会に参加して、色々な議論を聞いて、Google/YouTubeがもたらしうる「破壊と創造」についてあれこれ考えさせられた。中でも、著作権のあり方が変わるのではないか?という意見があったので、これについて少し考えてみたい。

私自身の著作権に対する考え方は、コモディティ化が進む経済(オンライン音楽販売に考える)というエントリを書いた時から、変わっていない。著作権というのは、その立法趣旨に鑑みても、創作者に対価をきちんと還元する仕組みによって創作活動(と創作物を公開すること)に対するインセンティブを高め、文化を振興するためにある。

と書くと何だか高尚っぽいが、卑近な例で言うと、私の場合、会社で日中働いてお給料をもらって生活してるので、本業以外のことを勉強して書き綴る趣味のブログはなかなか頻繁に更新できないなぁ、みたいな嘆きみたいなものだろうか。

話を戻すと、なぜ本を丸ごとコピーしてそれを配るのが違法なのか?というと、その情報を入手・保持することへの対価を著者に還元するための手段が、紙という媒体を売買することで担保されているからであって、もしそれ以外の方法が担保されたら、著作権法によって禁止される行為は現実世界に合わせて変化していくべきなのだ。レンタルレコード・CDという商売が登場して、「レコードを他人にお金を取って貸す場合は著作権者にお金を払うようにね」という条項が追加されたのと同様に。

そして、CDやDVDといった物理的な媒体ではなく、インターネットを通じて音楽・映像データそのものをやり取りするという動きを止めること、完全にコピー不可能なファイルを作ることはもはや無理だろう。一旦便利な方法に味を占めたユーザーは、不便で不経済な方法に逆戻りはしない。デジタルファイルはコピーされるものだという前提に立つこと(プロテクションを掛けることはできるが、ウィルスと同様ハッキング技術とのイタチゴッコだろう)、「ユーザーから直接対価を回収する」以外の方法を模索することが現実的なアプローチではないかと思う。

●CD業界では何が起こったか

ちょっと回りくどいかもしれないが、まず、映像配信の一歩手前で、音楽配信技術・ビジネスは、既存のCD業界にどういう影響を与えたのか、アメリカでの事例を見ていきたい。

RIAA (Recording Industry Assiciation of America) によると、CDの平均単価は1983年から1996年に掛けて40%下落しており、96年時点の平均単価は$12.75。これがもし、同期間の消費者物価指数と同様伸びていたとしたら、$33.86になるそうだ。そして、CD業界も大多数の商品は大赤字で、儲かる商品はごく一部 ― 黒字化するのは1割以下の商品とのことだ。やはりというか、相当ロングテールなんですね。

Between 1983 and 1996, the average price of a CD fell by more than 40%.  Over this same period of time, consumer prices (measured by the Consumer Price Index, or CPI) rose nearly 60%. If CD prices had risen at the same rate as consumer prices over this period, the average retail price of a CD in 1996 would have been $33.86 instead of $12.75.

また、業界全体の売上高を1995~2005年の10年間でみると、(注:PDFファイルが開きます)1999年の$14,584.7 million をピークに、2003年まで下落し、デジタル音楽が市場としてカウントされるようになった2004年から若干盛り返している。1999年と言えば、Napsterが発表された年であり、2003年と言えば、デジタル音楽がビジネスとして成功したiTunes Music Storeが始まった年に当たる。2005年は、2004年よりも業界全体の売上高は若干下落しているが、ユニット数はこの10年間で最大に増加している。それから、デジタル音楽の市場が全体に占める割合は、金額ベースでは4.1%だが、ユニットベースでは29.4%に達している。もう一つ興味深いのは、モバイル市場($421.6 million)が通常のインターネットでのダウンロード($503.6 million)に匹敵する勢いだということ。

つまり、アメリカのデジタル音楽市場(PC+携帯)は1千億円市場(日本円換算するのはちょっとヘンだけど)なのだ。

確かに、CDの単価は下落したし、違法コピーされた音楽ファイル数は合法的に購入されたものの何倍にもなるだろう。でも、トータルで見たら、業界全体はピーク時の84%程度には維持されている。そして、以前よりも多くの音楽が売れるようになっている。

これを見て、音楽配信技術は、従来のCDビジネスを単純に「破壊した」と言えるのだろうか?

●では、YouTubeはどのようなインパクトをもたらすのか

たぶん、(Googleによる買収前も今も、)訴訟リスクはYouTubeにとって最大のリスクファクターの一つだろう。
でも、それと同時に、YouTubeは面白い。可能性がある、と思う。

映画コンテンツなんかは、無償で全部アップロードされちゃうと辛いかもしれないが、それこそ素人が作ったコンテンツや、これまで超ローカルでしかリーチのな かった中小プロダクションのコンテンツ等、YouTubeがなかったらあんまり人に見てもらうチャンスがなかったゾーンにとっては、そもそも元の市場価値がゼロだったわけなので、ほんのちょっとでも金銭になればそれはそれで嬉しいことのような気もする。

ダンナも書いていたが、従来メディアがそれなりに流して作ったコンテンツより、素人が作ったコンテンツのほうが(瞬間最大風速的かもしれないが)人気を集めてしまったり、大量の「寒いコンテンツ」(Masa 33さんの図表は最高に分かりやすい)の中から未来の星が発掘されたり、あと、従来メディアが作ったコンテンツのコピーの中でも、例えば、30分の番組の中で、皆が最も面白いと思ったのはどの瞬間だったのか、ユーザーによる編集結果や閲覧数を見れば、瞬間視聴率なんかはむちゃくちゃ低コストで測定できそうだ。

アップロードされたコンテンツのコピーされ度合い・閲覧度合い、といった、従来とは全く逆の発想で、それに応じてお金に変換してユーザーに還元する方法も色々ありそうだ。その辺は、ダンナが詳しく書いていたのでそちらに譲りたい。

また、ET研でも一瞬話題になったが、なんと、アメリカの4大レコード会社のうち3社が、Googleへの売却直前にYouTubeの株を貰ったそうだ。その額はおよそ$50 millionらしい。Music Companies Grab a Share of the YouTube Sale, NYTimes, 10/19/2006)

金持ちケンカせずというか、Napsterとの訴訟騒動を通じて「割に合わん」と学んだのかは分からないが、一体どうやってこの$50 millionという額を算定したのかが気になる。合法オンラインダウンロード市場の1/10近い額なので、まーよっぽど違法アップロードが多いと言うことだろうか。。。。NYTimesの続報に期待したい。いずれにせよ、既存メディアがYouTubeの株主になっているというのは面白い構図である。


日本経済 競争力の構想―スピード時代に挑むモジュール化戦略

日本企業は戦略がないとか国際競争力がないってよく言うけど、本当なの?
それはどこの業界にも共通している問題なの?
日本はベンチャー起業が少ないっていうけど本当なの?他の国と比べてどれぐらい少ないの?それはなぜ?
ベンチャー起業が少ないと、経済や社会にどういう影響が出てくるの?
ITの活用度合いは競争力に関係しているの?
だとしたら、何を使うかが大事なの?ITを活用する能力・業務変革を行なう力が大事なの?
日本企業のIT活用力ってどれぐらいなの?

・・・こういった疑問に答えてくれる本です。4年近く前に出版されたものですが、とても面白いです。書評は別途まとめたいと思います。(実は、この本、著者の安藤晴彦氏に直接ご推薦いただいたのでした。ようやく読了。。。)

M・ポーターの「日本の競争戦略」を読んで、「いやまぁ、確かにそうかもしれないけど、どうして外国の人にここまで言われなきゃいけないの」と内心ちょっとモヤモヤ感を抱いた人にオススメします。

日本経済 競争力の構想―スピード時代に挑むモジュール化戦略
日本経済 競争力の構想―スピード時代に挑むモジュール化戦略 安藤 晴彦 元橋 一之

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というか、そもそもこの本は、ポーターに対する反論?検証?を試みているので、「日本の競争戦略」とセットで読むと良いと思います。

また、この本の著者は「モジュール化」で有名な安藤晴彦氏ということもあり、当然、モジュラリティの議論もバシバシ出てきます。ハイテク産業のキーワードなので、もしこの本を読んで、モジュラリティについて消化不良だった方には「モジュール化」をオススメします。

モジュール化―新しい産業アーキテクチャの本質 モジュール化―新しい産業アーキテクチャの本質
青木 昌彦 安藤 晴彦

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日本の競争戦略 日本の競争戦略
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※「モジュール化」や「日本経済 競争力の構想」に関連・言及しているこのブログのエントリ:
コンピュータ業界に訪れた転換点とは
コンピュータ業界でモジュール化が成功した幾つかの理由
「ソフトバンク、ボーダフォン買収で幕が上がる120兆円情報通信産業の波乱の行方」に参加して(2)


ソフトウェア業界の現実(の一側面)

前回、何のコメントもせずにイキナリ紹介したIDCのデータ(グローバルIT市場では、サービスが4割、パッケージソフトウェアが2割)だが、私はこれを見た時、パッケージソフトウェアの市場規模ってこんなに大きいのか!と意外に感じた。

これまでハッキリ書いたことがなかったが、ソフトウェア業界について私は幾つか仮説を持っている。

  1. 実はパッケージソフトウェアによってカバーされている領域はまだまだ限定的で、企業が使っているソフトウェアの多くはカスタムメイド(システムインテグレーションサービス)に依存しているのではないか。
  2. そして、パッケージソフトウェアの市場というのは、「以前はカスタムメイドだったものの標準化・テンプレート化」の繰り返しによって成長してきたのではないか。
  3. 今後も、パッケージソフトウェアは増加するだろうが、カスタムメイドの領域はなくならない。なぜならば、パッケージソフトウェアを使うということは、(厳密には違うのだが、極端に言い切ってしまえば)「他社と同じプロセス」ということだから。企業には必ず固有・独自のプロセスがあり、それが差別化・競争力の源泉のはず。
  4. 但し、逆に言えば、「今は単に標準化できるかどうかが分かっていないが故にみんなバラバラに作っているが、実は標準化できる領域」「企業固有のプロセスで、自分のコアコンピタンスだ、と思っている領域も、実はそんなに特別ではなくて標準化しても問題ない領域」というのも、まだまだ残っているのではないか。

ソフトウェアでベンチャー企業というと、みんな昨今はGoogleのような、広く世間一般の人に使ってもらえるものを想像するが、マイケル・クスマノ「ソフトウエア企業の競争戦略」では、ベンチャー企業へのアドバイスとして、企業向け(特定業界・特定業務の)パッケージソフトウェアを、サービスと組み合わせて売って行くのが現実解だろう、と結論付けている。(※この本の私のレビューはこちら

Software Magazineの"Software 500"(クスマノも本に参考資料として載せていた)を眺めると、幾つか興味深いことに気づいた。(そのうち気が向けばグラフを載せますが、気になる方はソースを見てみてください。会員登録すれば無料で見れます。表形式なので英語もそんなにないし)

  • ソフトウェア業界も、おそらくものすごいロングテールである。企業全体の売上高で見るとIBMとhpだけが突出して大きく、3位のMicrosoftの2倍以上になる。また、ソフトウェア+サービスの売上高に限ると、2位のMicrosoftは1位のIBM(注:IBMはグローバルサービスの売上高が大きいため、純粋にパッケージソフトだけではない)の半分の規模で、3位のOracle及び僅差で4位のSAPは、2位のMicrosoftの1/3。それから、ソフトウェア+サービスの売上高が$10 billionを超えているのは上位7社のみ。その後は、32位で$1 billion台($2 billion以下)まで下がり、60位以下は$1 billion未満。91位以下は$500 million未満(※1)
  • パッケージソフトウェア主体の会社よりも、コンサルティング・システムインテグレーション主体の会社のほうが多そうだ。上位50社でパッケージソフトウェアを売っている会社は16社程度(※2)だった。Microsoft(2位、$33b)、Oracle(7位、$10b)、SAP(9位、 $9.3b)、Sungard Data Systems, Inc(24位、$3.5b)、Avaya(25位、$3.5b)、Google(29位、$3.2b)Symantec(32位、$1.9b)、Amdoc(33位、$1.8b)、Intuit(35位, $1.7b)、Adobe(37位, $1.7b)、SAS(39位, $1.5b)、Siebel(42位, $1.3b)、Compuware(43位、$1.3b)、The Sage Group PLC(46位, $1.2b)、Acxiom(48位, $1.2b)、Novel(50位, $1.2b)
  • パッケージソフトウェアの大半は、大企業がターゲット顧客である。逆に、個人向け・中小企業向けがある程度の割合に達していると思われるのは、Microsoft、Google、Symantec、Intuit、Adobeぐらいだろうか。それ以外の会社は、最近は中小企業向けを謳っているところもあるが、実体はどうかは分からない。

これを見ると、クスマノが「コンシューマー向けの事業は難しい」というのも激しく肯ける。だからこそ、成功した時の見返りが大きいのだが。(※3)

そんなわけで、仮説1については、このランキングを見た限りでは、大体合っているように思う。仮説2については、以前、パッケージソフトウェア業界(主にOracle)で多少触れたが、特に企業向けの業務アプリケーションの分野では、あるパッケージベンダで働いている人がスピンアウトするパターンが多いことから、起業のパターンとして、「従来製品では対応できておらず、かつ多数の顧客にある程度共通している課題を見つけ、そこをカバーする新しい製品を売り出す」という構図が想像できるので、これもそんなに大きくずれてはいないように(勝手に)思っている。

残るは仮説3だが、これは、正直、2年以上前から気になってるけどまだ全然手が付いていないなぁ。。。。と思うので、追求の仕方はちょっと考えよう。

繰り返しになるが、全てをパッケージ化するのは無理だろうが、パッケージ化できる領域はまだたくさん残されているし、カスタムメイドのソフトウェアもパッケージも、今後もっと増えて行くだろう、と私は思っている。そもそも、世界には、まだコンピューター化されていない分野・コンピューターを使っていない人のほうが多いのだから。(これはクスマノの結論でもあるが。)

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Microsoft1社支配時代のパラダイムを変えようとするアジアからの動き

今日のIT業界で、パッケージソフトウェアを売る会社としてはおそらくMicrosoftが世界最大の企業である。IDCの予測で、グローバルのIT業界(ハードウェア/パッケージソフト/サービス)規模が$1,100 billion、PC市場は$200 billion台後半というのを見たことがある(但し、IT業界全体の予測と、PC市場の予測は、おそらく別立てなので、整合性が取れてるかどうかは未確認)。Microsoft1社だけで、売上高$40 billionぐらいある。規模は勿論、PCプラットフォーム上のビジネスに与える影響力の大きさという意味でもキーとなるプレイヤーなのだが、「次はどうなる?」というのが、おそらくこの業界に関わる人にとっては大きな関心事だと思う。

クライアントサイドにインストールするアプリケーションが基本だった時代から、所謂「あちら側」、サーバーサイドに移行するのか。そうなると、次世代のアプリケーション・サービス開発のプラットフォームはもはやWindowsではなくブラウザなのではないか、というような議論もある。

ThinkFreeも、そのような流れを体現しているが、ユーザビリティがここまで従来のアプリケーションに近づけるのか。。。と驚き、あれから妙に気になって、色々この会社のことを調べてしまった。

シリコンバレーの美味しいベト麺は、(少なくとも私がいた頃は)ベトナムタウンとして歴史の古い南サンノゼか、ベト街としては新興勢力のミルピタス方面に集中している。つまりアジア人の多く集まる庶民的なエリアということ。「シリコンバレー」と聞くと、「一億円で買えないような豪邸ばっかりズラーリ並んでるんだろうなぁ」と私も住む前は思っていたのだが、実はサンタクララカウンティの中でもかなり地域差がある。私の勝手なイメージだが、立ち上げの頃から「ベンチャー業界仲間内系」で注目されてて、「お願い投資させて」とベンチャーキャピタリストが群がるような会社は、スタンフォード大学のあるパロアルトにオフィスを構えることが多い気がする。

なので、創業から6年経っててベトナム人・中国人が多いエリアにオフィスがあるというのは、地道にじっくり商売してきている堅実な会社、きっと経営陣はアジア系に違いない!と予想したところ、やはり韓国系だった。

ThinkFreeのCEOは、TJ (Tae-Jin) Kang氏。トロント大学でコンピューターサイエンスと心理学の学位、認知心理学で修士号を取得している。1999年にVCから$24 millionの投資(現在までに合計$34 million)を受け同社を創業。ThinkFree創業前には1994年にNarasoftという会社を興した経験があり、ハングルのワープロソフト分野での経験が豊富のようだ。現在、ThinkFreeは、韓国のソフトウェア企業Haansoftの子会社になっている。Haansoftの2005年度の売上高が360億ウォン(≒36億円)。日本のパッケージソフト大手と比べると、ジャストシステムが122億円、サイボウズが60億円となっており、韓国は人口が日本の約半分なのでIT業界の規模も半分ぐらいだろうと推定すると、パッケージソフトベンダとしてはかなり大手なのではないか。ちなみに、Kang氏はHaansoftのVice Presidentにもなっている。CEOの次に名前が出ているぐらいなので、実力者なのだろう。

Haansoftは、日中韓で進めているAsianux開発にも参加している。2004年には、まさにそのKang氏が来日している。

韓国だけでなく中国、あと、日本も比較的そうかもしれないが、政府はオープンソースソフトウェアに熱心である。自国の産業振興と、セキュリティ面で、他国企業の製品に依存したくないという考慮があるのだろう。とは言え、幾らThinkFreeが(ひいてはHaansoftが)政府のバックアップを得ていたとしても、ここまで分かりやすく「打倒Microsoft」を前面に打ち出すというのがすごいと思った。1999年創業当時、そこまで考えていたか分からないが、「これからはASPだぁ!」「じゃあMS-Officeも要らないよね?」と言わんばかりのサービスを開始して、だけど当時はあんまり当たらなくて、MS-Office互換の安いパッケージ出して凌ぎつつ、今日ここまで来た、という背景を知って、

イノベーションは一日にして成らず

と改めて思ったのでした。

HaansoftのCEOご挨拶には、「昔は、IT業界は殆ど外国製品ばかりで韓国製のものは少なく、コンピューターではハングルすらうまく扱えなかった。弊社はハングル文字を扱う技術を通じて韓国のITの発展に寄与してきたという自負がある。今後は世界のリーディングカンパニーを目指す」というようなことが書いてあった。

私は、シリコンバレーで、IT・ハイテクのイノベーションのダイナミズムみたいなものを感じ、それに強く感化されたと思う。IPinfusionの石黒邦宏さん(10年連続で10万行コードを書いた天才プログラマ)がおっしゃっていたように、シリコンバレーも日本も、エンジニアの技術力とか開発ノウハウに、ものすごい差があるわけではないのだとしたら。企業がグローバルになれるかどうかは、もしかしたらヤル気があるかないかで差が出るのでは?と思ったことがあるほどだ。

だから、HaansoftのCEOのメッセージを見て、(国民性の違いもあるだろうし、韓国のIT業界の構図がよく分からないので、日本人が同様に行動すべきか断言はできないけれど、)この規模の会社が、パッケージソフトで世界一を目指すと言い、実際に数十億円相当をシリコンバレーでFundraisingして実行しようとしているという心意気には、素直に興奮した。

日本でも、メイド・イン・ジャパンのソフトウェアを世界に羽ばたかせようというコンソーシアムができたり、ソフトウェア産業の国際競争力を高めよう、という認識が高まってきてすごく嬉しい。

普段は、「日本のソフトウェアは絶対世界に通用するはずだ」みたいなことを書けば書くほど、「じゃあ、自分はそれに対して一体何がどれだけできてるんだ?」と考えてしまって落ち込むので、あまり書けないんだけど、ThinkFreeのことは同じアジア人としてとても勇気付けられたので、ここにご紹介しておきます。

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SaaS (Software-as-a-Service) もここまで来たか

ThinkFree Online (beta)のことは、PC Worldの記事で読んだ。
http://www.pcworld.com/article/id,127165-c,webservices/article.html

WritelyBasecampのことは前から知っていたし、多少触ったことがあったのだが、ThinkFreeのことは今まで知らなかったので、色々お試し中。

ThinkFreeは、元々、MS-Officeと互換性のある統合オフィスウェアのパッケージを開発・販売していた会社らしい。

ログインしてみて、わーユーザビリティがMS-Officeと全然変わらなーい、オンラインに保存するスペースが1Gもあるし、ローカルにダウンロードもできる!友達・同僚とシェアできて更新履歴も保持できる!他の人の公開されてるドキュメントを見たり、評価したり、タグ付けたりもできるのかー。え、ブログにポストもできるの?すごーい!スプレッドシートではグラフも書ける~!(Google Spreadsheetsではできないよね。。。)

と、ひとしきり「ほー」「へー」と驚いた後に、この会社の所在地を「もしや。。。」と思いながら確認したら、私の大好きなベト麺屋「Pho Kim Long」の近所だった。(って、シリコンバレーの地理を把握する基準がベト麺屋かい!と、自分に突っ込み。。。。)

PC Worldの記事にもあるように、確かに、ネットワーク接続環境の良くない時には若干イライラするかもしれない。でもアメリカのホテルって、最近急速にワイヤレスインターネットサービスを提供するところが増えてきてるし(場所によってはかなりの速度が出る)、あと、複数台のPCでデータを共有したり、リモートでワークシェアするときなんかは便利そうだ。