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コモディティ化したPC市場の象徴・Dell

あまりに久しぶりなので、忘れられてるかもしれませんが、「コンピュータ業界は今後どうなるんだろう」シリーズの続きということで、コンピュータの製造小売では世界No. 1のポジションに最も近い会社のひとつ、Dellを取り上げたいと思います。

 Dellの売上高は、$49Billion(2005年度)、粗利(Gross Margin)は$9Billion(18.3%)、営業利益(Operating Income)は$4.3Billion(8.6%)である。

出荷台数を見ると、シェアは年々伸びている。 同社アニュアルレポートによると、
パーソナルコンピュータのシェアは、米国内29.1%、ワールドワイドで17.8%、ラップトップ・デスクトップ共に
No. 1である。
x86サーバ(Intelベース)のシェアは米国内No. 1、ワールドワイドNo. 2(24.8%)
ワークステーションでは米国内・ワールドワイド共にNo. 1。

競合は、Hewlett-Packard, Sun Microsystems, IBM等だと思われる。ハードウェアの売上規模で見ると、hpやIBMとは並ぶ規模である。IBMはエンタープライズ重視なので、直接最もバッティングするのはhpだろうが、hpより利益率はよさそうである。

Dellといえば、サプライチェーンにおける卓越したオペレーションが有名だ。
顧客からの注文はチャネルを通さずダイレクトで、主に電話とWebで受付け、顧客の注文に応じた商品をオンデマ ンドで組み立てて出荷するのが、Dellの基本的なビジネスモデルである。組立型製造業のサプライチェーンで最大のボトルネックは「部品」だとよく言われるが、Dellは、部品は極力汎用品を使い、このボトルネックを極力コントロールしようとしている。

同業他社と比べた際の大きな特徴は、R&Dに費やしているコストが極めて小さいことである。DellのR&D費用は $463Million、売上高の1%に満たない。Hewlett-Packardは$3.5Billion(売上高の4%)IBMも$5-6Billion(同じく 売上高の4%前後と思われる)をR&Dに投資している。Dellで売っている商品の6割は他社が開発したものだと言う説もある。そのため、hpのFiorinaには「ひとつしか芸のないポニー」と揶揄されたこともあるらしい。

また、キャッシュフローの改善にもかなり力を入れている。
たとえば、買掛金(Accounts payable)は73日、売掛金(Accounts receivable)は30日前後となっているので、借りたお金は2ヶ月返さず、貸したお金は1ヶ月で返してもらっていることが分かる。また、在庫は4日分しか持っていない。

従って、「高付加価値型の新商品を市場に投入して利益率を稼ぐ」差別化戦略ではなく、「コモディティ化した
商品を誰よりも早く安く作り」「在庫は極力持たない」「借りたお金はなるべく返さず、貸したお金はなるべく 早く回収する」オペレーション上の優位を狙うのがDellの基本戦略
といえる。

このようなDellのサプライチェーンが、パッケージ化されたソフトウェアで回せるわけもなく、何年か前にCIO Magazineで、SAPを入れようとしたが業務が回らなかったので導入途中だったパッケージは全部捨てたという記事を見たことがあるが、「さもありなん」と思った記憶がある。

加えて、商品(モノ)は急速にコモディティ化するが、顧客とのインターフェース(オーダー受付・サポート等)はサービス業であり、コモディティ化しづらいため、単純にサーバだけを製造している場合に比べて、製造コストや人件費が安い外国ベンダに負けづらいのがDellの強みではないかと思う。ただ、今日、コールセンタなどの海外アウトソーシングとどう付き合っているのかは?

Dellは、派手な新技術とか、そういうのにはあんまり縁のない会社なので、あんまりブログのネタにはならなさそうだが、元々ブログ受け狙い路線ではないのできっとこれでよいのであろう。

しかし、そのような会社が、着々とパーソナルコンピュータ市場でNo. 1の地位を固めつつあるということは、PCが完全にコモディティ化市場であることの裏づけでもあり、エンタープライズのローエンドのコモディティ化も時間の問題である、と結論付けてよいように思う。


Comments

伴大作

お久しぶりです。

DELLの評価に関しては、異論が様々あります。
僕自身はマイケル・デル本人と話をした事、過去に
IDGのパブリッシングと係わりあいに関して、彼が
或いはファウンダーのパトリック・マクガバンとの
話の内容を知っていますが、同社の現在の業績に関しては
かなり疑問があります。

コンポーネンツの価格が世界的に「相場」がありますが、
同社の業績を支える調達価格はそれに対し、疑問を
禁じ得ません。

多分、同社の業績はかなり会計的な操作をした結果では
ないでしょうか。

仰ってる通り、PCは既にコモデティ化していますが、
DELLが主役になるとは思えません。
それは過去のコモディテイ商品の価格流通などを考えれば、
常識になっている部分があります。DELLvsWALMARTは
考えづらいです。
サーバー製品に関しても同じで、確かにWindowsベースの
サーバーに関しては仰ってられる通りですが、ミッションクリティカルなアプリケーション・サーバに関しては違うと
思います。特にDBに関してはOracle対応のサーバはDellを
使用しているケースは稀だと指揮しています。

DELLの業績が「仮想」でなければいいのですが...

p.s.僕の見方が偏ったものでなければいいのですが...
コンポーネンツを積み上げていくと同社の販売価格は
どう考えてもあわないと思います。冷静な判断ですが...

Tomomi

伴さま、
鋭いご指摘をありがとうございます。

実は、書きながら、
「あ~、今後は、コンピュータ業界のモジュール化の方向性を追うのには
部品の相場をみないといけないな~」と思っていました(笑)

いまMicrosoftについて調べてるところですが、
最大の売り上げ・利益を誇るクライアントOSセグメントでは、
チャネルとしてはOEMが最大だそうで、
中でも、Dellが1割を占める最大の顧客(でもあり、チャネルでもある)
なのだそうですね。
つまりOSの調達のためにDellはMicrosoftに$1.2B払っている計算になります。
こうやって一個一個積み上げていけば、だいたいのコストはわかるかな…。

あと、私のブログでは、アニュアルレポートに出ている数字、それも一部しか
とりあげていないので、まだまだ企業分析としては不足だなーと思っていたところでした。
それは今年の課題ということで(笑)今後もよろしくお願いします。

伴大作

アナリストとしては超一級の評価をしています。
もし僕がIDCに勤めている時に貴女を知っていれば
即入社のお願いに参上したと思います。
公開情報大事ですね。日本の情報公開は恣意的で
殆ど参考になりませんが、米国は公開基準が明快に
なっているので使えますね。
そのお陰で裏側から情報を入手していた僕の仕事は
あがったりですが...(自嘲

DELLの役員は殆どコンサルタント上がりなんです。
僕と同種の人種がマネージメントに参加していると
どうしても胡散臭い感じを拭えません。

昨今の価格低下の波の下でも、同社が好業績を維持
できているのは「奇跡」としか思えません。
単なる邪推かもしれませんが、同社の売り上げは
ごまかせないとしても、仕入れは相当操作が可能なので
大量購入で脅かしたり(インテルの製品購入に関して
これが明らかになっています。マイクソフトの製品も
同様ではないかと思います。会社は違いますが、
アップルがi-Podの生産で東芝や日立、サムソンに普通では
ありえない価格提示をしたのも有名です)下請けの在庫を
切り捨てたり(ディスプレーで台湾のベンダーに迷惑を
かけたという話は有名です。)ハブレス企業の実態は
実は下請け苛めではないでしょうか?
米国では個別の契約書が優先されますが、各国では
独占禁止法で弱小企業にあまりに不利な契約を締結する
ことを厳しく戒めています。Dellはこれに抵触するような
事をしているのではないかと思います。
日本の企業の生産の舞台裏を知っているだけに同社の業績は
素直に受け取れないのです。

まぁ、ベンダーの発表を素直に受け取れないのは一種の
職業病だと思っていますが...

ところで、話は変わりますが、mixiには参加されています
でしょうか?

伴大作

因みについにDellの評価下がってしまいました。

米デルの投資判断を引き下げ─バンカメ=マーケットウォッチ
2006年 02月 18日 土曜日 11:22 JST
 [17日 ロイター] バンク・オブ・アメリカ・セキュリティーズは、米パソコン大手デルの投資判断を「バイ」から「ニュートラル」に引き下げた。

 マーケットウォッチが17日、ウェブサイトで報じた。

ロイター電です。

Tomomi

私は、ブログでは、インサイダー情報(業務上知りえた内容)は書かない、
公開情報から分かることと自分の洞察を書く、と(基本的には)決めているのですが、
(いちおう「宮仕え」なので会社に対する操があるので)
日本人ってとにかく「で、実際のところはどうなの?」と聞きたがりますよね(笑)
「裏づけ」がないと、やはり何となく迫力がないんですよね。
なので「裏づけ情報」は大事だと思います。

素人の意見かもしれませんが、株価は「成長性」、もっと厳密に言うと、
投資家が立てた「この会社ならこれぐらい成長するだろう」という予測を上回れるかどうか
によってあがるのかなあ、と思っています。

確かに、Dellの業績はまだ伸びてはいますが、今のままだと近々急激に伸びることはなさそうなので、
ご指摘のバンカメの評価については、
「成長性が投資家の要求レベルに達していない」という点には私もアグリーですが、
それ以外の点、たとえば現状のオペレーション品質のよしあしなどの評価にまで
踏み込んだものではないだろう、と理解しました。

ですが、伴さまのBuying powerにまで踏み込んだご指摘には、
ナルホド!やはりどこの国でもあるのですねえ。と納得しました。

それと、やはりIBMなどと同様に、Dellもサービスビジネスに踏み込んでいるようですね。
http://www.computerworld.com/managementtopics/outsourcing/itservices/story/0,10801,108860,00.html?source=NLT_AM&nid=108860

Mixiは、ユーザ名「あしのともみ」(オールひらがな)で登録しています。

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